Dr.小川の相談事例(その1)

相談内容


ご相談者S様

補強土壁の盛土に改良した「ローム」を使用することを考えています。設計は砂質土の土質定数で行い,固化材による改良土を設計条件以上の強度にするという考えで行います。この場合の改良土の強度条件の求め方,試験等の方法を教えてください。また,何か文献,施工例等があれば教えてください。

Dr.小川の答え

盛土材を改良して補強土壁に使用する場合の設計法についてはまだ確立されていませんが,ここでは現場で用いられている一般的な手法について説明することにします。

(1) 設計の考え方

補強土壁の設計は,通常の砂質土(例えばφ=30°,c=0kN/m2)として行い,改良する盛土材(以下,改良土という)の強度を設計条件以上とする。すなわち,改良土の強度を用いて設計するのではなく,設計は通常の砂質土として行い,現地の盛土材を固化材で改良して設計条件以上の強度にするという考え方である。

ここで説明する改良土の強度定数決定法は,現場での補強土壁に働く全ての垂直応力σに対して,改良土のせん断強度が,設計条件(例えばφ=30°,c=0kN/m2)のせん断強度より大きくなるように決定する方法である。これを式で示すと次のようになる(図-1参照)。

図-1 改良土のせん断強度

改良土のせん断強度が設計条件より大きいと,土圧力は設計値より小さくなり,補強材と盛土材との間に発生する抵抗力は設計値より大きくなる。その結果,改良土を使用した補強土壁は設計時に想定した砂質土を使用する場合よりも安全な構造物となる。

(2) 必要な室内土質試験

補強土壁に改良土を使用する場合には,事前に以下に示す室内土質試験を行う。

  1. 改良土の三軸圧縮試験(UU)
     改良土の三軸圧縮試験は,必要強度を得る固化材添加量を求めるために行う試験であり以下の条件で行う。
    • 改良土の供試体は固化材添加量が異なる3種類を作成する(例えば盛土材1m3当り,40kg,70kg,100kgの3種類)。
    • 供試体の材令は7日を標準とする。
    • 三軸圧縮試験の側圧は,現地での最大垂直応力σmaxの1/2程度を最大値とする。
  2. 改良土の一軸圧縮試験
     改良土の一軸圧縮試験は,現地での施工管理に使用する資料を得るために行う。供試体作成の条件は三軸圧縮試験と同様に行う。
  3. (現場/室内)強度比
     現場での改良土強度は,室内試験における添加・混合法と異なるので,室内試験での改良土強度に比較して大きく低下する。施工機械別の(現場/室内)強度比は次のような値を使用している。
    • スタビライザー:0.5~0.8
    • バックホウ  :0.3~0.7
     通常は施工機械別の強度比は平均値を採用する場合が多いが,施工環境,施工業者,施工時期等を考慮して慎重に決定することが必要である。なお,補強土壁における現場で使用する施工機械はバックホウがほとんどである。
  4. 固化材添加量の求め方
     現場における固化材添加量を求めるためには,以下の値が必要である。
    • 現場での垂直応力σの範囲
    • 盛土材の設計条件(φ,c,γ
    • 改良土の室内強度(固化材添加量別の三軸圧縮試験結果)
    • 改良土の(現場/室内)強度比

(3) 設計計算例

ここでは改良土における固化材添加量を算出する場合の設計計算例を示す。

  1. 計算条件
    • 盛土材の設計条件
      φ=30°,c=0kN/m2γ=19kN/m3
    • 現場での垂直応力の範囲
      補強土壁の高さを10m(上載盛土なし),活荷重を10kN/m2とすると,σは次のようになる。
    • 改良土の室内強度
      改良土の三軸圧縮試験結果を表-1に示す。
    • 改良土の(現場/室内)強度比
      現地ではバックホウで混合するものとして,平均値の0.5とする。
  2. 設計計算
     固化材添加量別の改良土現場せん断強度τは次のようになる。
    • 添加量40kg/m3 :τ40=0.5×(80+σtan20.8°)
    • 添加量70kg/m3 :τ70=0.5×(130+σtan29.7°)
    • 添加量100kg/m3:τ100=0.5×(190+σtan33.8°)
     なお,σの範囲は0~200kN/m2である。
     固化材添加量別の改良土現場強度と設計強度を図-2に示す。
     図より,現場での必要固化材添加量は,40~70kg/m3の間であることがわかる。垂直応力200kN/m2における改良土のせん断強度は固化材添加量に比例していることより,比例配分で現場での添加量を算出すると65kg/m3となる。

図-2 現場における改良土のせん断強度と設計値

以上より,固化材を65kg/m3添加すれば,設計値のせん断強度を満足することになる。一方,固化材添加量の設定に当っては,現場で均一な混合が確保できる最小添加量についても考慮する必要がある。社団法人セメント協会発行の「セメント系固化材による地盤改良マニュアル(第二版)」では最小添加量をおよそ50kg/m3と考えている。

したがって,当現場における条件では,固化材添加量は65kg/m3となる。

なお,現場での施工管理は,改良土が所定の強度を有しているかの確認を一軸圧縮強度で行う。必要強度は施工前に三軸圧縮試験と一緒に実施した一軸圧縮試験結果より,現地での添加量(65kg/m3)の時の強度を求める。ここでは現場で確認する一軸圧縮強度は210kN/m2となった。

(4) 施工事例,文献など

施工実績としては,私の経験では壁高12m程度のものがありますが,スレーキングする泥岩をセメント系固化材で改良した事例では,2段積みテールアルメで壁高が22m(12m+10m)の施工事例があります。

また,参考文献を以下に示す。

(5) 留意点

セメント系固化材で改良した改良土は,透水係数が低くなります。したがって,背面からの湧水などをせき止め,地下水位を上昇させる場合があります。その結果,補強土壁を含む盛土全体のすべり破壊などが発生することがあります。

このような災害を防ぐ為にも,改良土を使用する場合には,改良土に湧水などの水が浸入しないように,地下排水溝などを設置して排水性を高めることが重要です。

 

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