新潟県中越地震における補強土工法

2004年10月23日に発生した新潟県中越地震では土構造物に甚大な被害が発生した。ここでは『土木学会・平成16年新潟県中越地震第二次調査団(家田仁団長)・「調査結果と緊急提言」 I 報告・提言編(2004.12.10)』より,補強土工法に関連する部分を引用して紹介するとともに,その他の情報を交えながら我々自身の問題としてまとめてみた。

●土木学会・平成16年新潟県中越地震第二次調査団(家田仁団長)・「調査結果と緊急提言」 I 報告・提言編(2004.12.10)よりの引用文

2.調査結果

2.3 土構造物及び自然斜面等の被害に関する調査結果
(1) 盛土の被害

一般道路・在来鉄道・宅地は,盛土部の大きな変形・変位,さらには全面的崩壊によって,各所で大きな被害を受けた。急峻な高い斜面・沢部・谷部などの集水地形に建設された場合,さらに排水性の悪い盛土材を用いた場合は,特に大崩壊に至った場合が多い。関越自動車道の盛土もほぼ同様であった。山間部では,迂回路が無い道路の盛土が多く崩壊したため,緊急復旧工事も行なえない場合が多かった。山間部では,棚田や鯉の養殖池で堤体の崩壊と池の底面のクラックが見られた。

これら盛土被害の様態のほとんどは,従来の工学的経験の範囲内の現象であった。阪神・淡路大震災以降,新規に建設される重要な盛土についてはレベル2地震に対応した新工法の採用が行なわれてきたが,既存の重要な盛土への対応については今後の課題となっていた。

なお,切土斜面で,擁壁・格子枠・アンカー等の適切な処置をした場合には,著しい被害を受けた例は限定的であった。

(2) 擁壁の被害

非常に多くの斜面上の重力式・もたれ式擁壁が崩壊したが,特に沢部・谷部では崩壊の程度が著しい場合が多いことが際立っていた。兵庫県南部地震以前から,これらの課題に対処するために,盛土内に面状補強材を多層に設置して自立性を与える補強盛土工法・擁壁工法が開発され,多くの道路・鉄道の盛土と擁壁が建設されてきている。今回崩壊した盛土と擁壁は,このような新工法で建設されたものは殆どない※1

※1 例外的なものとして,集水地形に建設された鉄筋補強土(テールアルメ)擁壁が大きく変状した例があった(関越自動車道堀之内PA)。これは,排水処理が不十分なため盛土内が飽和状態になっていたためと思われる。この擁壁は現在解体中である。その他,沢部に建設された無補強盛土の崩壊に巻き込まれる形で,隣接するジオテキスタイル補強盛土が部分崩壊した例がひとつあった(国道290号栃尾市栗山沢)。

3.緊急提言

3.4 土構造物等に関する提言
(1) 盛土・擁壁の選択的な強化復旧

道路・鉄道・宅地等の盛土・擁壁の復旧は,迅速な復旧を最優先して行なう必要がある。しかしながら,重要度が高い施設が被災した場合,大規模な盛土や高い斜面上の盛土のように被災地の復旧が困難な場合など※1においては,単純な原状復旧を超えて,選択的に,適切な排水処理と十分な締固めを行い,建設コストが適切となる最新の構造形式を採用して,原状よりも構造的に強化して機能復旧に努める必要がある※2

※1 鉄道・道路等の線状構造物では,一ヵ所の崩壊がシステム全体の機能不全につながることがある。そうした箇所では,地震・豪雨等の同じ外力に対して,総合的に見てRCや鋼構造物,トンネルなどの異種構造物と同等の抵抗力を持っている必要がある。ここでいう総合的とは,建設費,復旧費,維持費などのライフサイクルコストを意味する。

※2 盛土・擁壁の耐災性と建設コストは,必ずしも比例するものではなく,費用対効果の高い新しい工法を開発して使用する必要がある。例えば,斜面上の重力式擁壁とジオテキスタイル補強土擁壁を比較すると,通常は前者の方が建設費は高く耐震性は低い。

(2) 土構造物の被災原因の究明と耐震診断

今回の地震で崩壊した盛土・擁壁と自然斜面の被害メカニズムとその原因の究明を行なうとともに,被害を性能設計の立場から評価して,今後の崩壊の予測,設計法・施工法の改善に役立てることが必要である※1。この結果を反映しつつ,崩壊した場合の被害の程度と社会的影響度が大きい既存の盛土・擁壁と自然斜面の耐震診断法を,最新の知見・設計法※2に基づいて整備し,それに基づいた耐震診断と補強を実施することが不可欠である。

※1 盛土材料は,一般に現地の地盤から採取したものを用いるため多様であり,締固め度・含水比などの相違によって地震時に極めて複雑で多様な挙動を示し,地震時の盛土崩壊メカニズムは未だ十分に把握されていない。また,自然斜面の形態や安定性は更に多様であり,広範囲にわたる自然斜面の実態を正確に把握することは現状では難しい。

※2 1995年兵庫県南部地震で盛土・擁壁構造物が著しい被害を受けたことから,土木学会で土木構造物の耐震設計法に関する特別委員会が設置され,第五WGで「土構造物および地中構築物の耐震設計法」の見直しを行なった。その成果は「土木構造物の耐震設計法等に関する第三次提言と解説」(平成12年6月)」に述べられている。主な変更点は,レベルII地震動を取り入れた設計計算法を採用すること,一定の条件の下での変形を許容すること,地盤・盛土の設計せん断強度を合理化し,土質・盛土材料による差を考慮できるようにすること,補強土工法など新しい工法の採用を検討すること等である。これらの提言は,順次鉄道構造物・道路構造物・ダム構造物等の耐震設計に活かされつつある。

まとめ

  1. 土木学会の調査結果によると,補強盛土工法や補強土壁工法を含む補強土工法は殆ど崩壊しなかった。
     しかしながら兵庫県南部地震に比較すると,今回は崩壊や変形の被害が大きかったようである。この理由としては,部分的に兵庫県南部地震よりも地震加速度が大きかったことや,中越地震前の連続的な降雨により盛土材の含水比が上昇して,盛土材のせん断強度が低下していたことが考えられる。
  2. 提言では,原状よりも構造的に強化して機能復旧に努める場合には,「適切な排水処理と十分な締固め」を重要視している。
     これは良好な補強土工法を構築するために,我々が設計・施工上留意すべき次の3項目の2項目に合致している。
      ・基礎地盤や盛土材の調査を十分に行なう。
      ・盛土内に水を浸入させないように,地下排水工を設置する。
      ・良質な盛土材を使用して,十分な転圧を行なう。
     補強土工法が完成してから何らかの問題が発生するのは,殆どの場合が豪雨や地震に遭遇する場合である。一般的には豪雨による被害が地震によるものよりも多く,前述した留意すべき3項目は,豪雨を意識したものであるが,地震に対しても有効であることが考えられる。
  3. 今回のような大地震や豪雨に遭遇しても,崩壊せず安全に供用できる補強土工法を設計するのが,我々の役目であり使命であると考えている。「適切な排水処理」を現場ごとに対応していくことは,まだ技術的に課題として残るが,今回の「調査結果と緊急提言」を真摯に受け止めて,今後の設計に活かしていくことが我々には必要と考えている。

 

注) 『土木学会・平成16年新潟県中越地震第二次調査団(家田仁団長)・「調査結果と緊急提言」 I 報告・提言編(2004.12.10)』の詳細については平成16年新潟県中越地震第二次調査団(家田仁団長)・「調査結果と緊急提言」  I 報告・提言編(2004.12.10)を参照願います。

 

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